今回は紋の入った“織の色無地”を紹介します。
今では「家紋」という言葉が一般的ですが、あるいは「定紋」「表文」ともいいます。昔より家々にて紋を定め、家を表すしるしとして、いろいろなところに使用してきました。
「きもの」においては通常「紋付」といい、五つ紋、三つ紋、一つ紋として留袖・色無地・喪服等に入れ、主に正(礼)装用としています。その昔は振袖にも紋が入っていました。
紋入れの技法として主に「染め抜き紋」と「刺繍紋」があります。現在では染め抜き紋が格上とされていますが、果たしてそうなのでしょうか?
徳川将軍の葵の紋には「絞り」も「刺繍」も「織」もあります。いかなる技法であっても、紋に格上も略式もないような気がします。
おそらく染め抜き紋は白生地のときに糊置きして「誂える」から格上、刺繍は地染めしてからでも入れられるから略式という、ごく感覚的なところからこの考え方が生じたのでしょう。
そもそも公家装束の有職文様は「織」で表されています。大名の定紋もやはり「織紋」。織紋というのは最初から経糸・緯糸の計算をしなければなりません。非常に手間のかかるもので、いわゆる「錦」です。錦はその昔、上級武士や皇族、公家等しか着用することができませんでした。また、袱紗の高級品は綴織です。
これまでの織技では、定紋(家紋)の細い線の部分を織り込むのは非常に困難でしたが、現在の西陣織技術の発展により、織にて定紋を入れることに成功し、これを「帛礼」と名付けました。
帛礼とは、定紋を織り込んだ「きもの」。地は西陣の技術による先染めの紋織です。
基本的にあらゆる定紋を織り込むことができ、また紋の色を自由に変えることができます。
定紋(家紋)という古代から続く日本文化の美的習慣と、現代の技術が集合した、まさに新しい日本の“きものの美”です。
(2008年8月)
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織定紋色無地「帛礼」の使用絹糸は国産繭です。 |
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