京都西陣 株式会社帛撰(はくせん) hakusen
帛撰のものづくり PHILOSOPHY ギャラリー(今月の帯) GALLERY 会社概要 OUTLINE 問い合わせ CONTACT
GALLERY/ギャラリー[今月の帯・バックナンバー]
「袋帯 袿錦 紅白梅図文」

「袋帯 袿錦 紅白梅図文」
琳派 ―感性の継承―

日本美術における「〜派」というものは、例えば血縁で結ばれていたり、または面識がある者たちによって成り立っていて、その中での約束事などがあればそれに従ってモノを手がけていくという形になっています。
一方で、〈琳派〉(その絵師たち)には血縁も面識もなく、先行する全くの他人の絵、またはその作風を各々が継承していく様であると思います。

絵画・彫刻・工芸と、かの岡倉天心らによって近代美術は分類されましたが、江戸時代の日本美術にはそういう区別は存在しませんでした。秀でた感性を持つ者(または同士)が、ジャンルを問わず何でも手がけていく。何かキャンバスのようなものに絵画そのものを描くのではなく、絵師たちの感覚による絵画を、むしろ工芸品に落とし込んでいきました。
つまり造形の美が主体。それは例えば、屏風絵、団扇や扇面、香包や焼き物や蒔絵、小袖など、生活を美しく飾るもの――「用の美」の一つの完成形が、〈琳派〉ではないだろうかと考えるのです。

現代の日本にも様々な工芸品が新しく次々と生み出されていると思いますが、それらをデザインするにあたり、〈琳派〉は重要な参考美術であると思います。
先行する芸術作品を見て、学び、そこに個人の感性や趣向を加えまた新しいものを生み出していく、「本歌取り」の伝統が日本にはあります。日本の美術においては、まずは「写してみる」ということが、新しい創造の原点であるように思われます。

これは我々、西陣のものづくりにおいても同様です。西陣織のルーツは上代の染織にあるというのは以前にも述べました。古代人の創造、美を追求する精神が、現在の西陣のものづくりにまで連綿と受け継がれています。上代裂(法隆寺裂・正倉院裂)にとどまらず、能装束・小袖・名物裂・焼物・更紗やインドネシアの絣など、先人の創造の美に感銘を受けるものは山ほどあります。
もちろん〈琳派〉もそのひとつです。過去の美術品に美を感じ、学び、そこに個々の持つ感性を足して、同じモチーフを繰り返しながらも、どこかに新しさを足したデザインを生み出す。そのためには、我々の仕事の一環として、美術館や展覧会に足を運ぶことは欠かせません。

しかしながら、ものづくりびとの想像や感性というものが反映された美術はとても奥深く、一目見て理解することが容易でないものがたくさんあります。
それでも見るのです。わからなくても見る。そのうちに、自分の中で何を見たいのかが、ぼんやりと定まってくる瞬間が来ます。それを繰り返すうちに、発想やアイデアの一粒が、自分の中からやっと出てくるという感じでしょうか。

私的な記憶ですが、小学生の頃、図工の科目の一環でデッサンの授業がありました。校舎の中庭に咲いていたタンポポの花を描くにあたり、担任の先生が、
「花と格闘しなさい。でないとそれは、自分の絵にならない」
と教えてくれました。対象を見てそれと格闘することが、創造の試練の一つであり、感性を継承していくことであると思います。

(2010年11月)

琳派にちなんだ帯
左から、「糸錦本袋帯 紅葉狩」「袋帯 袿錦 琳派葛文」「真綿糸使用本袋帯 竜田川」

「糸錦本袋帯 紅葉狩」「袋帯 袿錦 琳派葛文」「真綿糸使用本袋帯 竜田川」
拡大ボタン クリックすると拡大します
 
今月の帯 →今月の帯

バックナンバー →バックナンバー