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「袋帯 桃山春秋文」
「袋帯 桃山春秋文」

「袋帯 桃山春秋文」
―自由な創造―

織りあがってきたこの帯を最初に目にした時、その意匠から「小袖」のイメージが頭に浮かびました。
平安時代の貴族女房の装束は「襲ね色」といって幾色かの「袿」を重ね着し、複雑な色の重なりの妙、美しさを表現するものでした。しかし時代の動きの中で、衣服には軽い・動きやすいといった機能性(機能美)もまた求められるようになっていきました。
そうして生まれた「小袖」は、直接肌の上に着る下着だったものが表衣脱皮*1し形式昇格*2した結果、美しさが求められるようになりました。幾重にも衣を重ねるのではなく、一重着(ひとえぎ)であるがゆえに、意匠と技が小袖に集中したのです。

また、同時に「自由な創造」というイメージも湧きました。
装束や襲ね色というと、身分と、身分による制約(色にも衣服の形にも)がつきまといます。しかしこの帯の名にもある「桃山」という時代の自由な空気感。活気。乱世からの解放、人々が泰平の世を享楽しているという感じ……。桜と菊が天真爛漫に描かれたこの帯から、そういったイメージが浮かんできました。

あるいはもともと下着だったものが「表着」となったことによって、女性の肉体美というものが再認識されたのではないか。そんな考えも持ちました。桃山という時代に、人々はあらためて女性の肉体の美しさや妖しさに酔いしれたかも知れません。

乱世から解放され、小袖に見惚れ、それを身に纏う人間の精神も解放された時代。そんな時代が一つの文化、日本美を形成したのかも知れない。この帯を見て、そんなことを想いました。


*1表衣脱皮とは、服飾の変遷の原則のひとつで、もともと下着だったものが表衣化する変化のこと。たとえば十二単から小袖へ移行する変化、Tシャツやタンクトップが下着から普段着へとして認知されていく変化のことをいう。

*2形式昇格とは、下位にある形式が、上位にある形式に取って代わっていく変化のこと。たとえば狩衣はもともと庶民のお洒落着であったものが、のちに貴族の日常着となった。


(2012年4月)
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