京都西陣 株式会社帛撰(はくせん) hakusen
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「袋帯 袿錦 山道文」
「袋帯 袿錦 山道文」

「袋帯 袿錦 山道文」
情念 −能装束 厚板より−

能という演劇はとても象徴的です。
登場人物に個人名などがあったとしても、その人物の具体的性格などを描くのではなく、たとえば戦場での争いの後に残る虚しさや、失った子を求めて嘆く母の苦悩、叶わぬ恋の果てに相手の男に報復までしようとする女の愛憎など、人の心の裏側の、その奥の方にある哀しき性(さが)とその人間の本質を描くような...。能は観る者の心に人間の情念の模様を、説教のように表現し、訴えかけます。

そんな能の世界において、視覚的に最も強い象徴性を持つのが能装束です。
今回の袿錦の意匠の元は「厚板」。厚板とは主に男役や荒神鬼畜の扮装に用いられる装束です。帯を締めて着る着附として着用され、大体の場合、大口や半切という袴をつけ、法被・狩衣などを表に着用します。そもそもは厚板織りといって複数の色緯糸を縫い取り風に織り込み、それを経糸で抑えた固地の織物ですが、能装束としての厚板は必ずしもこの織り方に限りません。ただ男役の着附としての役割上からか、大きく派手な色目の幾何学的文様や縫い取り絵文様が目立ちます。

今回の袿錦*はこれまでの意匠の中で最も強い印象のものです。西陣紋織物の色糸の重なりの妙、写実を超える視覚的強さ・迫力が、見事に表現できたのではないかと思っています。

*袿錦(うちきにしき)とは、我社の創作した袋帯の一つの名称。公家の女性の装束「小袿」(こうちき)の上品さを、袋として表現できないものかと思い袿錦と名付けました。

(2016年11月)
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