京都西陣 株式会社帛撰(はくせん) hakusen
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「なごや帯 本紗すくい織 小町」
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「なごや帯 本紗すくい織 小町」
無常の中の美

個人的な話ですが、私は入江泰吉氏の大和路の風景の写真が好きです。氏の写真を多く所蔵する「入江泰吉記念奈良市写真美術館」は、奈良市の高畑という、閑静な住宅街だけど古い屋敷なども建ち並ぶ静寂な品が漂う町の中にあります。名刹・新薬師寺と隣合せです。

入江氏が撮った大和路の美しさは、モノクロでもカラーでも、少しの寂しさや侘しさにあると思います。ただ氏は、「多彩なカラーは綺麗だが、色の無い、だからこその目に見えない心象や情感を表現できるモノクロの比ではない」というようなことを言っていたらしい。

自然の中の一輪の花や一木一草は、枯れてはまた咲き繁り、移りゆく四季と共に輪廻します。それに対し、その自然の中で生きる人の生命には制限があります。木や草花や山河はその生命を連鎖させ、その自然の中で人も共存しているけれども、個人は永遠ではない。いつか訪れる絶対的な「死」が、生まれたその瞬間から不動に存在します。移り廻る自然と対比し老いていく人間の儚さを、入江氏の美しい大和路の写真を見て感じたことがあります。

人の世も生命も無常の中にあります。でもそのことを判っているからこそ、人間は美を創造(想像)できる、見いだせる「心」を持った生き物なんだと思います。

このなごや帯の意匠は、そんな無常の時の中でも楽しく面白く生きようとする人間の有様を、洒落に昇華しようと試みた一品です。

(2017年3月)

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