京都西陣 株式会社帛撰(はくせん) hakusen
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「袋帯 袿錦 薫香花文」
「袋帯 袿錦 薫香花文」

「袋帯 袿錦 薫香花文」
―芳しき装い―

前々回の記事で“美術館や展覧会に足を運び、美術品や工芸品を見続けることで、自分の感性を養う”といったことを記しました。
しかしこの行為はただただ繰り返すばかりで、自分の中で何かつかんだり、あるいは確信を得る…なんてことがいつもあるとは限りません。というかいちいちありません。

その対象物についての知識を持っていれば、新たな知識が増えたり、理解や感覚が深まることはあります。けれどその経験をもとにすぐ何か形にして産み出せるかというと、そんなことは無いわけで、正直「こんなことを続けていて意味あるのか?」と思うこともあります。

それでも、ものづくりのきっかけは、ひょんな瞬間といいますか、ある時ふと思い浮かぶものです。

今回の袋帯は、一本の香水瓶から着想を得ました。香水など私はほんの一寸嗜む程度で、その起源や歴史に蘊蓄など全く持ち合わせていません。あるとき東京の美術館で企画展覧会を開催しているのを偶然知り、「香水瓶の展覧会なんて珍しいかな?」と出張ついでに足を運んでみた次第です。

私が目を留めたのは、高さ5〜6p位の円筒形の香水瓶でした。西洋のタイルのような、その中に連続した七宝文様も見えます。配色は日本の工芸品にはあまりなさそうで、とても新鮮に映りました。「これは帯にうまくはまるのでは」そう考えながら京都に戻り、機屋さんに図案化を依頼しました。

この点も以前述べたと思いますが、たとえどんなに自分の感性が鋭く、また想像力が豊かだったとしても、西陣のものづくりは自分一人の感性だけではできません。職人の方々の感性と技術が混合しながら、はじめてオリジナルのものづくりが完成するのです。
今回ははじめに自分が思い描いた形とはまた少し違う、想像を超えた錦を生み出すことができたと思っています。

「香り」というものは、古代社会において宗教的な意味を持っていたようです。神々の怒りを鎮め、また加護を得るために、様々な香りを神々に供えたと。
世俗の生活においても香りは重要で、誕生や結婚祝い、弔いなど、人生の節目の儀式に欠かせない役割を持っていたようです。

西陣のルーツである上代の錦も、仏教が日本に伝来するとともに、仏を崇め、飾るための荘厳具として欠かせないものでした。
近代になると、西陣織は人生の節目の儀式に立ち会う人々が美しく装うための帯となりました。

そういった西陣織、染織史の流れと、「香り」の持つ意味や役割の変化、それに伴い美しく装飾された香水瓶の歴史が、自分の中で都合良くリンクしたのでした。

(2011年4月)

配色を変えて

「袋帯 袿錦 薫香花文」
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